さらば安中貨物①-JR貨物
毎度のことながら春のダイヤ改正で消えていく列車が多いんですが、この春はなぜか歴史ある列車が消えていきますね。こちら、東邦亜鉛が荷主の通称「安中貨物」もその列車の1つ。そこそこ歴史ある列車なんですが、荷主の経営危機から大規模なリストラにて現在の生産体制を大幅縮小、それに伴い貨物列車が廃止となります。↓

この列車、運行形態が独特で有名だったんですが、まずルート。荷主の東邦亜鉛の小名浜精錬所と安中精錬所を結ぶ列車なんですが、福島臨海鉄道への専用線を経て小名浜→泉→常磐線を経て北小金あたりの分岐から武蔵野線へ、大宮操車場を経て高崎線、信越本線に入って安中へと至ります。帰りは(正式には安中発が往路らしい)返空にて同一ルートで土浦でマルヨ、翌朝小名浜へと丸1日かけて往復します。↓

かつては水戸線・両毛線を経て安中と小名浜を結ぶ最短ルートで運行されてました。両毛線貨物がなくなったため、行きが田端経由、帰りが武蔵野線経由に変更、のち往復とも現在の武蔵野線経由となっています。↓

またコキ基本の世の中で、車扱のトキ+タキというユニークな編成も注目を浴びてました。この組み合わせ、精錬工程のラストとなる電解亜鉛製造を安中精錬所で行っていたためその原料となる中間品を貨車で運んでいたんですが、タキではパウダー状の亜鉛焼鉱(ほぼ亜鉛分)を、トキでは焼鉱の前(焙焼の原料)となる亜鉛精鉱(概ね亜鉛分50%)を運んでいました。タキは最大16両+トキは最大6両という長大編成が小名浜~安中を定修期を除きほぼ毎日運転していたというんですからすごいですね、列車運行の関係者も甲斐があったことでしょう。↓

2010年には老朽化したタキを更新すべく、東邦亜鉛所有にてタキを新製。新タキは塗装を黒から茶色へ変更し、茶タキ+茶トキのロング茶編成となります。↓

タキ更新時は旧 小名浜駅にぐちゃぐちゃに置かれていました。確か2011年3月の震災に津波にかかりましたが被災は最小限度だったようで、その後滞りなく新製タキに置換完了したみたい。↓

また、この頃寝台特急用にJR東が調達したEF510は間合い運用でよく安中貨物にてアルバイトをしていました。↓

そんな流れだったのでこの先も安泰と思われた安中貨物だったのですが、荷主のオーストラリアでの投資が思ったように回収できず負債が拡大、一方で市況に大きく左右されキャッシュフローも不安定化、経営が傾きだします。↓

2021年秋に安中精錬所の焙焼炉を停止し、電解亜鉛の能力のうち3分の1を落とす決定をします。これにて亜鉛精鉱が不要となり、小名浜からの列車にトキが連結されなくなります。小さな釜でエネルギーを食うから止めたんでしょうね。安中の設備は古いので更新投資してまで使うとなると投資回収できないんでしょうから、連結目線での生産設備最大化にて始めた、貨物列車を組み込んだ製造システムだったんで、その工程を変更するとなるとすぐにでも採算合わなくなるだろうなあと、ここで貨物〇亡フラグが立ったわけなんです・・・↓

結局、東邦亜鉛は昨度末に鉱山投資を減損評価し大幅減益となり債務超過となってしまいます。精錬事業も微妙に赤字が続いていたのでこの先の債務解消は絶望的となり、先日の報道の通り、他社との連携強化となった次第。。。バランスシート改善のためさらなるリストラが必須で安中精錬所での亜鉛精錬そのものの停止となったわけです。で、加工原料も不要となるので安中貨物も終了するわけで・・・↓

戦前に作られた安中精錬所、傾斜地にへばりつく工場群にて独特の夜景が楽しめると、今やちょっとした観光地にもなってるようなんですが、実はかつて、精錬に伴う二酸化硫黄を含むばい煙、カドミウムなどの重金属が混ざった廃液などで、高度成長期は工場公害が大問題になった、ちょっとした黒歴史を持つ場所なんです。当時を知る人は「ここが観光地だと?!」ってような気持ちになるかもしれません。一方で令和になって本業が躓き、鉱山投資も失敗してほぼ倒産みたいな状態になってくると、今度は地域経済にも大きな影響を与えることになると・・・まあ、たいへんだ。。。今後はレアメタ回収などのリサイクル事業へ転換し現有設備を有効利用するってことなんですが規模の縮小は避けられず。。。はてさて・・・次回は安中精錬所の専用線紹介へ・・・つづく。↓
