※2024年現在、オークランド都市圏の鉄道電化・近代化推進で本記載内容の一部が大きく変わっています。ご注意ください。 ![]() さて、ニュージーランドの鉄道網は開拓時代に敷設されたものが全土に隈なく敷かれているものの当初の開拓・開墾の役割は終え、自動車の発達とともに一部の都市部を除き旅客のローカル運用はほぼ消滅、もっぱら貨物輸送が主体となっています。また貨物輸送など需要のない地方路線は80年代までに大半が廃止され、残った路線も幹線を除き列車本数はそう多くありません。 現在ニュージーランドの鉄道は2008年7月1日から「キウイ・レール(Kiwi Rail)」という名の下、再び国営の鉄道となりました。それまでは物流会社であったトゥール社傘下のトゥールレール(TOLLRAIL)によって運行されていましたが、インフラ使用料の低減を国に求め意見が対立。2007年12月から水面下で再国有化が検討され、トゥール社が持分を全部国に売却して再び国有化されました。 もともと、ニュージーランドの鉄道は他国同様に国営だったのが、ニュージーランドの国政大改革の1つとして1993年に鉄道民営化が行われ、トランツレール(TRANZRAIL)社がその運行管理を任されました。以前のニュージーランドは規制大国でたとえばトラック輸送は一気貫通での輸送は150km以上が禁止されていたなど、非効率的な政策の影響で80年代に深刻な不況に陥っていました。 その後、譲渡されたトランツレールは出だしは順調だったものの利益優先の経営を行ったため、晩年インフラの老朽化が深刻となり2003年に多額の特別損失を出して事業から撤退。これを受けて政府は民営化したうちのインフラ部分を再び政府の管理下へ戻し国家インフラとして位置づけを変更、鉄道経営権は切り離してオーストラリアの物流会社トゥール社に譲渡し、新たにトゥールレール(TOLLRAIL)として再出発しました。 当初はトゥールレールも鉄道貨物を一手に引き受けこれまでのトラック物流などと統合して物流の効率化を目指していましたが、前者のトランツレール同様利益優先の経営に傾斜。旅客部門として長距離観光列車を運行するトランツシニック(TRANZSCENIC)、ウェリントンの近郊電車であるトランツメトロ(TRANZMETRO)、ウェリントンとピクトンを結ぶ鉄道フェリーの「インターアイランダー(INTERISLANDER)」も不採算部門として経営の切り離しを訴えるにいたりました。 結局前述のとおり、ニュージーランドの鉄道は国のインフラを守るという視点から再び国有化されることになり、老朽化した機関車の置き換えや路盤整備などを積極的にすすめ、手直しを図っていくことになりました。 この他、都市交通としては最大の都市オークランドの近郊列車としてベオリア・オークランド(インフラ・車両はARTA:オークランド地区運輸局が管理)があります。また、クライストチャーチ市内を走る観光トラムのクライストチャーチ・トラムウェイなど、各地に観光鉄道や保存鉄道が存在します。 KIWI RAIL ニュージーランドの鉄道運営を一手に担うキウイ・レール(Kiwi Rail)は政府が経営権100%を所有する国有の会社です。1993年に民営化された鉄道が、民間会社2社の経営を経て、再び2008年に国有化されました。 鉄道の主体は貨物列車の運行が中心で、旅客部門は長距離列車の「トランツシニック(TRANZSCENIC)」とウェリントン首都圏の輸送を担う「トランツメトロ(TRANZMETRO)」に分かれます。 ![]() 北島は、動脈系統である北島幹線ではオークランドやウェリントンなどへ都市間輸送、あるいは支線からオークランドなどへ運ばれるコンテナを中心としたいろんな荷物(農産物や工業物資、肥料など)が運ばれます。また農産物や工業品、木材など国内外への船での積み出しは、ノース・オークランド線を中心とした北部のワンガレイ、東海岸本線にあるマウント・マウンガヌイを中心とした系統、南部のマートン・ニュー・プリマウス線の系統があり、東海岸本線は結構本数の設定があります。 南島は概ね南北路線は域内または北島と連絡するフレートライナー(農産物や工業物資、肥料など)が中心、ミッドランド線はンガカワウとラパホエから出炭される石炭列車(クライストチャーチ郊外のリトルトンから船積み)が中心となります。 ![]() 鉄道の軌間は日本と同じ1067mmで、規模が小さいながら直流電化、交流電化、非電化複線、電化複線と形態はすべて揃っています。電化区間は北島のみで、交流電化区間のハミルトン~パーマストン・ノースは途中の峠越え対策として電化された経緯があります。交流電化区間は電気機関車が牽引、それ以外はディーゼル機関車という使い分けがされています。直流区間(ウェリントン~パラパラウム・アッパーハット)にも機関車を持っていますが、直流内運用のみとあってあまり活躍の場がないようです。 人口400万人ちょっとの国とあってその輸送規模が大掛かりのような感じもしますが、前任のトランツレールが貨物輸送を積極的に開拓し、トラック輸送とうまくコラボさせた経営を行っていたため、近年物流量が年々増え、世界のお手本と言われた時期もありました。ただ晩年インフラにお金を投じず老朽化し結局経営破たんしたのは前述のとおりです。 現在も貨物輸送は積極展開を行っており、鉄道沿線にあるいろんな工場と線路を結んでこまめに荷物を集めていきます。おもしろいのはそうした工場が日本と同じように専用の入換DLを持っていること。仕組みはイギリスから導入とあって、日本とそっくりです。腕木式信号までそっくりです。 なお、支線は健闘むなしく物流量低下で廃線同様のところ(たとえばロトルア線は休止扱い、タウマルヌイ-スタートフォード線は平日1往復のみなど)もあるようで、今後はインフラ再生とあわせ路線の再編もありうるかもしれません。 TRANZSCENIC トランツシニックはキウイ・レールの長距離旅客部門で、一時はトランツレールからオーストラリアのウェスト・コースト鉄道(2004年にV/ラインへ統合)が株式の50%を買い取り共同経営となっていましたが2003年に買い戻され、トゥールレール100%の傘下となり、現在はキウイ・レールの子会社となっています。 ![]() 現在北島に1往復、南島に2往復の計3系統の運行を行っており、それぞれの列車には愛称があります。北島のオークランドとウェリントンを結ぶ列車は「オーバーランダー」号、南島のクライストチャーチとフェリー接続駅のピクトンを結び列車は「トランツ・コースタル」号、クライストチャーチと南島西海岸のグレイマウスとを結ぶ列車は「トランツ・アルパイン」号と呼ばれています。 それぞれの列車は北島南島とも共通スタイルで、機関車牽引の客車列車となっています。DLに空調付き客車、電源車兼荷物車が基本編成で、多客時には非空調の旧型車両が連結されます。2011年秋に久々の新型客車が導入され、オーバーランダー号とコースタル号で運用が始まりました。(かつては北島のオーバーランダー号限定で最後尾前面ガラス張りのラウンジカーが、南島限定でオープンデッキカーが連結されてましたがどうなったのかな。) どの列車も観光色が強く、南島の2列車は完全な観光列車といってもいいでしょう。 ![]() ただどの路線も赤字経営で、以前は豪華客車の連結などで有名だったサザナー号(クライストチャーチ~インバーカーギルに運行)が2002年2月に廃止、北島のオーバーランド号の夜行版であったノーザンナー号は2005年2月に廃止、さらにそのオーバーランダー号も2006年9月末で廃止されるところでしたが、沿線からの反対などで存続が決定、ただこれまで毎日運転だったのを夏季シーズン以外は週末運転の季節列車に格下げになってしまいました。 そんなことから全列車とも公共性ある旅客輸送という使命を捨て、不定期の観光列車として再出発しようという動きがあり、この20年、部門売却の話が出たり引っ込んだりしていました。再国有化された今、環境にやさしい乗り物として見直しが期待されています。 都市交通 ニュージーランドの都市近郊列車は最大の都市オークランドと首都のウェリントンにあります。オークランドはベオリア・トランスポート・オークランドが運営しますが、以前はトランツメトロが運営してました。2003年のTRANZRAIL経営破たんにおいてこのトランツメトロのオークランド部分もオークランド市主体の公社に経営権が返納され、オークランド交通インフラ再生事業のスタートと相まって、インフラと車両はARTA:オークランド地区運輸局が管理、鉄道運営のみをフランスのベオリア(旧コネックス)に任せる現在の形になりました。また鉄道にバスなども含め公共交通機関をMAXXというブランドでくくっています。 ![]() オークランド地区の鉄道は、最大の都市とはいえ全線非電化で一部複線という貧弱なインフラで、現在近代化に向け公的資金が注入されインフラリニューアルが進められています。基点の駅オークランド-ブリットマート駅は2003年にこれまで地上駅だったオークランド駅をダウンタウンサイドに移動し地下化されました。2010年9月には廃線を活用した「オネフンガ」線が再開業しました。 ベオリアの運行系統は4系統でそれぞれEastern Line、Western Line、Southern Line、Onehunga Lineと呼ばれ、2両で1ユニットのDCカーがメインで使われフリークエンシーで運転されています。ほとんどの車両はオーストラリアパースの都市交通(トランスパース)の中古車で、パース近郊路線の電化に伴い不要となった車両を譲り受けたものです。譲り受け時に更新されることもなく、内装・外観ともかなりくたびれた状態で使われていましたが、経営主体が変わった2003年秋から既存車両のリニューアルが図られ、現在新たなカラーリングでほとんどの車両内装が一新されました。 このDCユニットは3タイプが存在し、他にも客車牽引のDL+客車のプッシュプルセットがあります。客車牽引は平日限定で使われ、Southern LineとEastern Lineでメインに使われます。最近は車両不足からWesternLineでの使用も始まりました。 DCユニットはADK-ADBクラスの680-770系、ADL-ADCクラスの800-850系がパースから来た中古車両で、2両で1セットとなり、組み合わせのそれぞれの車長が少し違うのが特徴です。また、以前ロトルアなど中距離用に使われていたシルバー・ファーンと呼ばれるRMクラスの1系はオークランド~プケコヘ間など限定的に使用されています。この車両は1972年に川崎車両で作られた日本製ですが結構老朽化が進んでおり、近い将来廃車になりそうです。客車列車はDL+4両が基本編成で、客車最後尾には運転台がついておりプッシュプル運転が可能です。 また駅施設も車両同様にかなり老朽化していましたが、経営母体が変わり少しずつリニューアルが進んでいます。ただ将来的には路線インフラの更新・整備(WesternLineのスワンソンまでの複線化)、オネフンガ(Onehunga)支線をオークランド国際空港まで乗り入れる新線建設とあわせ全線電化する計画があり、それに併せて駅施設など大掛かりな更新を行う予定です。電化計画は南隣の町ハミルトンまで行う計画があります。またウェスタン線のヘレンスビル(Helensville)までの運転延長も2008年7月からスタートしましたが、こちらはその後旅客数が伸びず、2009年11月にて運行終了となりました。 一方ウェリントンはキウイ・レール傘下のトランツメトロ(TRANZMETRO)が運営します。ウェリントンを基点にジョンソンビル、アッパー・ハット、パラパラウムの3系統が電車での運転、アッパーハットから先のマスタートンまではDL牽引の客車、パラパラウムの先パーマストン・ノースまではDL+客車の「キャピタル・コネクション」号(運行はTRANZSCENIC)が運転されています。 電車は2両1ユニットが基本形となっており朝夕のラッシュ時は6両編成を組むなど、結構な乗車があります。客車区間は本数が少なく、キャピタル・コネクション号は平日1往復、マスタートンまでの列車は平日5往復、週末2往復となります。現在これら非電化区間で使われている老朽化した客車を置き換えるべく、DCカーの導入がスタート。新型電車も導入されゆっくりながら車両の更新が進み始めました。運転区間が長いキャピタル・コネクション号はオーバーランダー号との車両共通運用となっています。 ウェリントンの都市交通もオークランド同様、行政が補助金を出したりして経営に強く関わっていますが、オークランドと違ってこまめにインフラの整備をやってきたため整備が行き届いています。以前は、TOLLRAILからTRANZMETOROを切り離し、オークランド同様別の鉄道運営会社に任せようとしてますが、買い手との調整が付かず売却はいったん頓挫。再国営化となった今は経営はそのままトランツメトロで継続されることになりそうです。 またウェリントンには市内交通として真っ赤なケーブルカーで有名なウェリントン・ケーブルカーがあります。高低差のある市街を走るため結構利用者がいます。 鉄道フェリー 北島の首都ウェリントンと南島のピクトンを結ぶフェリーは「インターアイランダー」と呼ばれ、鉄道同様キウイ・レールが経営しています。インターアイランダーは貨車の積み込み等行う鉄道フェリーで、船は3隻あり、2隻が鉄道・車両兼用、1隻が車両フェリー1隻となっています。92kmの距離を約3時間で結びます。車両、鉄道とも往来は結構あり、1日4~5便運行されています。なお、日本の青函連絡船のように鉄道to船to鉄道の利用者はまずなく、列車の接続もあまり考慮されていません。 保存鉄道・観光鉄道 ニュージーランドには各地に保存鉄道や観光鉄道が走ります。北島ではオークランドから近いプケコヘ郊外にあるグレンブロック・ビンテージ鉄道が有名。休日を中心にSLが運転されます。ここはオークランドに近いことから結構人気があるようです。また、陶器で有名なコロマンデル(Coromandel)にあるドライビング・クリーク鉄道も有名な観光鉄道で、陶器の原料を運ぶトロッコを改造したのが売りです。遊園地の乗り物のようで、いろんな観光ツアーのコースによく組み込まれています。 北島東部にあるギズボーン(Gisborne)とその南に位置するムリワイ(Muriwai)とを結ぶギズボーン・シティ・ビンテージ鉄道は飛行機滑走路とレールがなんと平面クロスすることで有名。ニュージーランドらしい省コストな発想ですが、日本人からしたらちょっと引いてしまいます。 その他北島にはハミルトン郊外などにSL運転(ブッシュ・トラムウェイ)が、ワイヒ(Waihi)にはゴールドフィールズ鉄道がレトロ列車を運転します。またオークランド市内には、郊外のワイタケレ(Waitakere)にあるワイタケレ・トラムラインがヘロヘロ軌道をトロッコ列車が、ウェスタン・スプリングス(Western Springs)にある交通博物館ではレトロトラムが園内を走ります。 ![]() 一方南島には個性的な鉄道がいくつかあります。まず有名なSL列車がキングストン・フライヤー。クイーンズタウンに面するワカティプ湖南端のキングストン(Kingston)からフェアライトまでを走ります。フィヨルドで有名なミルフォードサウンズ観光ととこのクイーンズタウン観光と抱き合わせでツアーに組まれる、メジャーな観光SL鉄道です。 ここから少し東に行った南島第2の都市ダニーデンからは観光鉄道のタイエリ峡谷鉄道が発着します。廃線を利用したこの鉄道は、風光明媚なタイエリ峡谷が見物です。このダニーデン郊外にはオーシャン・ビーチ鉄道という保存鉄道があり、ヘロヘロレールの上をレトロな列車が特定日に運転されています。 ダニーデンから海岸沿いに北へ上がったティマルにはプリザント・ポイント鉄道があり短い路線ながら特定日にSLが運転されています。その北のアシュバートンにも歴史博物館を兼ねた保存鉄道「プレインズ鉄道」があり、こちらも特定日に約3kmの道のりをレトロ列車が走ります。 ![]() またクライストチャーチ郊外にあるフェリーミード歴史公園にはニュージランド鉄道発祥の地とあって動態保存の鉄道が走ります。主に日曜日に客車とトラムが運転され子どもたちに人気です。 クライストチャーチの北、ワイパリ(Waipari)には本格的なSL運転で有名なウェカ・パス鉄道があり、隔週日曜日運転でありながらもニュージーランドやオーストラリアなど各地から訪問者がやってくる、人気路線となっています。 西海岸グレイマウスの南10kmに位置するパロア(Paroa)から少し東に入ったシャンティタウン(Shantytown)には開拓時代のアトラクションがあり、この園内を当時のSLが走ります。砂金体験採取などもあり家族で楽しめます。 |