解説

大社駅を出発した出雲市行き列車。 三井鉱山セメント田川工場専用線は別名金見鉄道とも呼ばれ、平成筑豊鉄道金田駅から分岐し、南西方向にあった関の山鉱山までの約5kmを結んでいました。専用線というよりも貨物鉄道のような雰囲気で、DE10タイプの機関車が1日2往復のセメント列車を運んでいました。

三井鉱山セメントは旧三井鉱山の子会社で、2003年三井鉱山が債務超過となって産業再生機構の管理下になり、大規模なリストラを実施。セメント部門は廃業、関の山の土地と鉱山権は南隣で操業する麻生ラファージュ(旧麻生セメント)が買い取りました。ただセメント工場と専用線は引き継がれず、2004年3月25日の最終出荷、26日の返空回送を最後に専用線が廃止、工場も撤去となりました。

勾配を登ってくる返空編成。 この三井鉱山、三井三池炭鉱を有していた三井石炭鉱業(今は清算)ともとは1つの会社で、どちらも産業構造の転換で生き残れず、姿を消してしまうこととなりました。

また、引き継いだ麻生ラファージュも、フランスのセメント会社の資本を受け入れての事業継続で、必ずしも安泰というわけではなさそうです。ちなみに元首相の麻生太郎はこの麻生セメント社長も務め、現在は弟が社長とのこと。

話を専用線に戻しますが、関の山で採掘された石灰石は隣接する田川工場でセメントにし、出荷場である門司・田野浦のサービスセンターへ貨車で送り込む物流形態をとっていました。金田からは平成筑豊鉄道を経由し、直方から筑豊本線で折尾の短絡線を使って鹿児島本線終着駅門司港に。門司港からは田野浦臨港線と呼ばれる専用線に入って田野浦にあった出荷サービスセンターまでを結んでいました。

三井鉱山セメントがこのような大胆な横持ちをしていたのは、もともと田川工場にセメント仕上げプロセスがなかったため、出荷センターであった田野浦まで中間品だったクリンカーを送り、最終仕上げを田野浦で行っていました。晩年はセメントまでの仕上げを田川で完結していたようですが、サイロやパッケージングは田野浦のものを引き続き使用。コスト競争力から見ればかなり不利なサプライチェーンでした。

専用線内の運行は朝便と午後便の2往復が運行されていました。朝出荷はセメントを積載した貨車を出し金田駅でJR機に引き継ぎ。前夜到着した空貨車を工場に持ち帰ります。午後は朝同様にセメントを出荷し金田駅でJR機に引き継ぐと同時に田野浦から来た空貨車を工場に持ち帰る運用でした。金田駅では貨車の受け渡しだけを行っていたので工場から出てきた専用機はすぐに引返してました。

また、引き継がれるJR線や臨港線も同じく1日2往復のピストン輸送が組まれていました。セメント需要が減っていた中、土曜も運転するなど結構な頻度で運行されていました。また平成筑豊鉄道のドル箱列車でもあったため、貨物廃止の翌年度は赤字決算になるほどでした。力強い走りは専用線というより貨物鉄道でした。

機関車の主力はDE10タイプのNo5とNo6。オレンジ一色の不思議な雰囲気が漂っていました。特に正面のナンバリングが製造機器っぽく特徴的でした。工場構内には黄色の凸型機関車も複数いて、入換中心に動いていたようです。


沿線風景

金田駅は石炭時代からの大きなヤードがそのまま生かされていました。ヤードとはいえ、機関車の付け替えだけしかしてませんでした。

金田を出ると中元寺川を渡って、田んぼの中を突っ切っていきます。丘の中腹にある関の山鉱山まで勾配がありますので途中下糸田あたりから築堤を登って行きます。

下糸田の集落を抜けると山の中へ。沿線に民家などなく山間を行く雰囲気に大きく変わります。鳥尾峠ふもとのため池脇(堤防下)を進み、トンネルに。専用線でトンネルというのもちょっとめずらしかったです。

県道55号の跨線橋をくぐると工場ヤードへ。ヤードは今の国道201号線関の山交差点の北側にあり、旧国道201号線道路(当時はトンネルが開通してなかった)から俯瞰することができました。またこのあたりの大字が見立と呼ばれ、金田と見立を結ぶ鉄道ということで「金見鉄道」とも呼ばれていたそうです。

ちなみに遺構は結構残っていて、ガーター橋や築堤、トンネルなどもそのままのようです。ただ工場のあったところやヤード部分は整地されて空地となっているようです。


廃止前ダイヤ

◇金見鉄道

工場発 10:00 → 10:20着 金田 発 10:40 →工場 11:00着
工場発 14:00 → 14:20着 金田 発 14:40 →工場 15:00着

◇金田~直方~門司港~田野浦公共臨港線

8682レ 金田10:48発→12:58着 門司港13:00発→田野浦港13:13着
8683レ 田野浦港15:21発→15:31着 門司港15:47発→金田17:41着

8680レ 金田18:22発→ 7:29着 門司港 8:53発→田野浦港 9:06
8681レ 田野浦港11:14発→11:24着 門司港11:36発→金田13:43着


 
関の山鉱山 Google MAP

PHOTO GALLERY

鉱山構内

・声をかけてちょこっとだけ入れてもらった側道から撮った写真。いい感じの雰囲気がありました。

     -2000.10.21




時系列:鉱山→金田

・積車が工場を出発。ゆっくりと勾配を下りていきます。

     -2003.11.8

・ため池脇の築堤を進みます。

    -2000.10.21




・下りなんですがDLはしんどそう。タキにいっぱい詰まってるので仕方ないか。ここは曇天じゃないとうまく撮れないところでした。

        -2000.10.21



・結構山深い風景を進みます。

     -2000.10.21




・やっと下まで降りてきました。中元寺川築堤までの田んぼの中を走ります。

      -2000.10.21




・別の日の同じ場所。これは午前の出荷ですね。

     -2003.11.8




・この築堤の反対側。午後の出荷です。

    -2003.11.8





時系列:金田駅入換

・山からはだいたい20分で下りてきますが時間どおりではなく、JR貨物編成がつくころを見計らってやってきます。入換が終わるとすぐに山に向けてご帰還でした。

    -2000.10.21    -2003.11.8



時系列:金田→鉱山

・金田駅を出ると中元寺川を渡り、大きな築堤をカーブしてきます。こちらはアウトから午後便返空。

      -2003.11.8

・同じ場所から。この年は周辺は大豆畑になってました。

      -2000.10.21



・上記のインからだとこんな感じ。田んぼの中を行く、いかにも日本らしい風景を進みます。

      -2003.11.8



・少しだけあった直線区間は編成写真にぴったりでした。

       -2000.10.21



・ここは勾配を上ってきて県道に差し掛かる手前あたり。

    -2000.10.21



・県道は線路をオーバークロスしていました。上って来るところを望遠で。

     -2000.10.21



・上記の広角だとこんな感じ。

    -2000.10.21



・同じ県道跨線橋付近からサイドに別アングルで。撮れる所が限られましたがいろいろ楽しめました。

     -2000.10.21



・県道の南にトンネルがあり、出口南側にあった陸橋からこんな感じで撮影できました。なんだかんだでこの専用線は立体交差が進んでいました。橋の反対は工場。これで任務完了です。

       -2003.11.8



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