西オーストラリア州(Western Australia, WA)はオーストラリア最大の州でオーストラリアの面積の約三分の一を占めています。ただし住んでいる人は少なく、人口はほぼ200万人。ほとんどの都市は南西部に集中し、州都パース(Perth)もこのエリアに位置します。インド洋に面していることからか、比較的インド系の住民も多く見られます。 ![]() また観光地として有名なポイントがいくつかあり、古い港町であるパース近郊のフリーマントル(Fremantle)、奇岩が並び立つパースの北にあるピナクルズ、イルカが浅瀬までやってくる西北部にあるモンキーマイアーなど、渋めの観光スポットが多く存在します。 西オーストラリア州の鉄道概要 さて、西オーストラリアの鉄道ですが、パースを基点に放射状に線路が敷設されており、人口が集まる州南西部に路線網をたくさん持ちます。もともと同州の鉄道は他のオーストラリア各州同様に州営鉄道の形体を取っており、1975年に「Westrail」というブランド名で長らくWestrailで親しまれてきました。 その後、西オーストラリア州も他州同様に鉄道の民営化を進めるべく、2000年に鉄道インフラを管理する州政府機関である「Western Australian Government Railways Commission (WAGRC)」を設けて資産を「WestNet Rail」に長期リース、鉄道運営・管理部分は「Australian Railroad Group (ARG)」の子会社「Australian Western Railroad (AWR)」に売却され、親会社の「Australian Railroad Group (ARG)」が鉄道事業を行うこととなりました。 のち2006年には親会社のARGが売却に出され、西オーストラリア州の資産部分は投資会社である「Babcock & Brown」が、鉄道運営部分を「Queensland Rail」が買収し、西オーストラリア州の鉄道運営はQRの傘下となって現在に至っています。QRはクイーンズランド州が100%株を保有する会社であり、形式上で見れば再び公営となった感じです(QRもいずれは上場する計画)。 また、旅客部分はパース近郊と都市間輸送の小さいスケールであり、公共性を重んじて「Public Transport Authority」という州の機関が運行を管理します。パース市内は「トランスパース(Transperth)」によって電車・バス・フェリーを運営管理、パース郊外路線は「トランスワ(Transwa)」によって電車・バスの運営管理を行っています。 ![]() 西オーストラリアの軌間は1067mmと1435mmが混在する世界的にもめずらしい鉄道スタイルとなっています。もともと敷設されたときの軌間は1067mmで、大陸横断鉄道が完成していないときは西オーストラリア州の鉄道は1067mmで作られていました。 現在もパース周辺では1067mmが中心に使われていますが、1968年にオーストラリア縦断鉄道がパースまで延長される際、パース~カルグーリー(Kalgoorlie)間においては遠くシドニー、メルボルンと1本のレールで結ぶべくオーストラリアの標準軌である1435mmに改軌され、パース駅の東3つ隣の駅であるイースト・パース(East Perth)~カルグーリー間とミッドランド(Midland)から工業地帯であるクウィンアーナ(Kwinana)、クウィンアーナ~フリーマントルまでの支線が1435mm化されました。 ただ、トランスパースの電車運転区間のイースト・パース~ミッドランド(Midland)、貨物のローカル運用が残ったミッドランド以東メレディン(Merredin)、本線とクウィンアーナまでの支線では1067mmのレールが必要となり、1067mmと1435mmの三線軌条となっています。結構な距離で3本レールが敷かれており、世界的にもめずらしい事例となっています。 この他にも観光鉄道や保存鉄道が州の西部を中心に、また州北部のピルバラ(Pilbara)地域には大きめの鉱山鉄道網(主に鉄鉱石運搬)が存在するなど独特の鉄道網を形成しています。 (RAILMAP参照) ARG(Australian Railroad Group) ARGことオーストラリア鉄道グループ(Australian Railroad Group)は現在クイーンズランド州をベースとするクイーンズランド鉄道(QR)の傘下企業ですが、もともとは西オーストラリアの鉱山開発などを手がける大手企業「Wesfarmers Limited」とアメリカの大手鉄道会社「Genesee and Wyoming Inc(G&W)」の合弁企業で、オーストラリアの鉄道民営化を機に鉄道事業に参入するために設立された会社です。 最初は1997年に南オーストラリア州の鉄道事業に参入、続いて2000年に西オーストラリア州の鉄道事業に参入しました。ただ2006年に合弁形態を解消するとともに所有株式の売却を行い、西オーストラリア州の鉄道事業は投資会社とQRへ譲渡。南オーストラリア州は合弁相手の1社「Genesee and Wyoming Inc(G&W)」が引き継ぎました。 現在西オーストラリア州の鉄道運営については、インフラは投資会社が、鉄道運営はQRが担当となっており、西オーストラリアの鉄道は実質QRの傘下となっています。ARGはQRのグループ会社として引き続き西オーストラリア州内の貨物輸送を担当し、州際貨物も手がけています。また旧ARGが持っていたニュー・サウス・ウェルズ州での鉄道貨物事業(穀物)も引き続き行っています。 州内の路線は中部以南となっており、北部への路線はありません。人口が集中する南西部で路線が発達しているほか、東南部の大陸横断鉄道と南氷洋側の港湾都市をそれぞれ結ぶ路線が主な構成となっています。 州内貨物の物流は、中部は内陸各都市からインド洋に面した港町ゲラルドトン(Geraldton)への貨物輸送が主となっており、支線では穀物・チップなどの農産物関連を中心とした季節運転が多いのが特徴です。南西部は石炭や化学、コンテナなど産業資材が港湾や化学工場などがあるパース郊外のクウィンアーナを中心に列車が発着し、バンべリー(Bunbury)周辺の化学工場向け、エウィングトン鉱山の石炭、遠くシドニーやメルボルンへのコンテナなどが主な荷となっています。 ![]() またクウィンアーナ、フリーマントル、バンべリーにはそれぞれ港湾設備と鉄道が繋がっており多数の荷物が捌かれます。大陸横断鉄道もこのうちクウィンアーナ、フリーマントルとに繋がります。 州東南部の南北間路線は鉱物輸送が中心となっており、沿線のところどころにあるさまざまな鉱山へ支線が伸び、鉱石を積出港まで運びます。南部には2つの港がありますが、アルバニー(Albany)への路線は1067mm、東に位置するエスペランス(Esperance)への路線は1435mmの鉄路で運行されます。 複線区間はパース~アデレードの幹線(カルグーリーまで)とトランスパース運行区間で、それ以外は単線となっています。電化区間はトランスパース運転区間のみで、ARGとしては電化区間を持っていません。所有機関車もすべてディーゼルとなっており、1435mm用が約40両、1067mm向けが約60両の保有となっています。 Transperth トランスパース トランスパースは州政府機関によって運営される公共交通体で、パース市内の公共交通を一手に引き受けます。電車はもちろん、バス、フェリーまで運行しています。このうち電車はパース中心部から放射状に5路線を持っており、2両1ユニットと3両1ユニットの編成がフリークエンシーで運転されています。ラッシュ時や多客時には2+2の4両編成、3+3の6両編成も登場します。 ![]() もともとこの電車網は1991年に交通機関の近代化を図る際に誕生したもので、DC中心だった車両をすべて電車化する大型投資でした。空調の効いた列車は当時としてはかなりのグレードアップだったのでしょう。この電化で不要となったDCはニュージーランドのオークランド近郊路線用(現ベオリア)へ譲渡され、現在も現役で使われています。 Transwa トランスワ トランスワはトランスパースがカバーしないパース郊外を担当する州の公共セクションで、列車としてはPerth~Bunburyを走る「オーストラリンド(The Australind)」、East Perth~Kalgoorlieを走る「プロスペクター(Prospector)」、East Perth~Merredinを走る 「エイボンリンク(Avon Link)/メレディンリンク(Merredin Link)」の3タイプが走ります。 ![]() オーストラリンド号は軌間1067mm仕様でパース~バンべリー限定使用となっており、紫の基調カラーを纏うステンレス車体の列車です。1日2往復の設定があり、バスとの共同運行で1日4往復を確立します。 プロスペクターとエイボン/メレディンリンクは1435mm用車両を使い、同一線路上を走りますがそれぞれの専用車両が使われます。外見はほぼ同じでカラーリングだけ違いますが内装はまったく違ったものになります。それぞれ1日1往復または曜日限定で運行されています。 プロスペクターとエイボンリンクの新型車両は2005年以降に導入されましたが、この更新を機に旅客が増え運転日の拡充などが図られ好評を得ています。 観光鉄道・保存鉄道 保存鉄道・観光鉄道はパース郊外に路線があるくらいで他州に比べると数は少ないのですが、それぞれが個性的な鉄道で人気を博しています。 パース郊外のホワイトマン(whiteman)にあるホワイトマン公園を走る「ベネット・ブルック鉄道(The Bennett Brook Railway)」は、トラムと鉱山鉄道風のミニ列車の2系統が走ります。ボランティアによるNPOが運営しており、土日祝日、学休日と水・木に運転されています。 バンべリーの南、森の町ペンバートン(Pemberton)に拠点を持つ「ペンバートン・トラムウェイ(Pemberton Tramway)」は廃線を利用したSLと小さな蓄電式トラムを、2つの区間に分けて運転しています。このあたりは、木々の少ない西オーストラリアではめずらしく森がうっそうと茂っているのですが、列車はその深い木立の中を進むため、結構人気があります。特にトラム側の路線は深い緑の中を進むため、まさに森林浴が楽しめる内容となっています。 ![]() フリーマントルからフェリーで行くリゾートアイランドのロットネスト島(Rottnest Island)にも鉄道が走ります。島のリゾート運営を行っている「Rottnest Express」によって運行される「オリバー・ヒル・トレイン(Oliver Hill Train)」がそれで、観光ツアーの「Gun and Tunnel Tour」の1つに組み込まれ、このツアーに申し込んだ人だけが乗車できる鉄道となっています。この鉄道は島を一望できる丘の上まで楽に行くことができます。 鉱山鉄道 州北部のピルバラ(Pilbara)地域には鉄鉱石を運ぶ鉱山鉄道が4路線あります。これらの鉄道は鉱山から港までを結ぶ鉱山鉄道で、どの鉄道とも接続しない専用鉄道となっています。規模も大きく重量物を運ぶため、機関車メーカーの出力向上の試験に使われたりもするそうです。昨今の原料需要の旺盛さから、新たに5路線目が建設もスタート、さらに6路線目の建設着工も決まりました。 また、一部路線では運転の無人化も実現。今後も目が離せません。 |